眠い。
あー・・・6時50分・・・
ヴ゙ゥアアア!!
集合時間は7時10分前。まさに今。
集合場所は旅行代理店の前。そこまで歩いて約3分。
ヤヴァイ!
2秒で起き上がって、
5分でシャワー浴びて、
2分でマヤマ君を起こさないようにこっそり着替えてコンタクト装着して、
3分で荷物をまとめて部屋を出る。
集合場所までスーパーロングダッシュ。煙出てたかも。
到着!
7時5分。
ダァッ!
・・・だっ・・・誰もいない。
ここに車が停まってるから、と言われた場所に何もない。
もしかしてもう行っちゃったとか?
マジで?
俺の象は?
オー マイ エレファント!
ふと見ると、旅行社の事務所のドアが少し開いてることに気付く。
奥の机にはおばあちゃんが石像のように動かないものの、しっかりと存在していた。
「おはよう、おばあちゃん!カンチャナブリーの象に乗るツアー!」
「・・・うん? ああ、カンチャナブリーね。えーっと、そこ座って待っててね。
まだ誰も来てないみたい」
( ゜_ゝ゜)…アフン
・・・そうだ。ここは外国だった…。
汗だくで息もあがりかけてるので、座る気にはなれない。
外に出て待つ。ホント、誰もいない。
そもそも朝7時前のカオサン通りに人はほとんどいない。
道路でよく見る、薄茶色の5センチ以上はありそうなゴキブリが動いてやがって、余計に腹が立つ。
カサカサしてんじゃねーよ。
7:15 欧米系の大学生らしき参加者登場。
「ハイ、 モーニン」
モーニンじゃねーよ。
寝不足も手伝って邪悪バージョン。
まあ、とにかく遅刻者続出、そもそも運転手まで遅刻して、7時45分に出発したわけだ。
ふーん。ふーん。( ´_ゝ`)
とりあえず車の中で爆睡。1時間後、墓を見学。
ガイドの人が、鉄道を作った連合軍の捕虜の共同墓地だと説明してくれた。
基本的に、文化的でも芸術的でもない人間なので、別に見て楽しいところではなかった。
しかし、きれいに芝が刈られていて、管理が行き届いていることに好感。
そして次に、映画「戦場に架ける橋」の舞台となった橋を見るらしい。
この橋は、日本軍の輸送網断絶を狙った連合軍によっての爆破の格好の標的に。
その結果、多くの犠牲者を出したんだと唯一の日本人参加者、俺に向かって説明をしてくれたガイドのおじさん
へぇ~、へぇ~、へぇ~。
とにかく、その橋の下に流れる川を、イカダで下る。
とりあえずタイに来て、初めて観光名所の写真を撮ったような気がする。
暑い。今、まさに腕が日焼けしてるんだな、って分かるぐらい暑い。
日差しもキツイ。
ところで、だ。ニュージーランドで激流下りをしたときも、カヌーに乗ったときもそうだったが…
カビだらけのライフジャケットを着させられるのは世界共通なんだろうか?
そのカビ臭さと暑さのため、 川に出て5分でつらくなってくる。うぇっ。
とにかく乗っていたほとんどの人達が、かなり体力の消耗をしたイカダだった。
さぁ、いよいよ次は電車に乗って、象がいる牧場(?)まで移動するらしい。
おお、とうとうメインイベントが!
ここでグループが二つに分かれた。
欧米人は全て2泊3日のツアーで、象に乗って山をト レッキングをするらしい。
対して、韓国人4人と俺は1日のツアーだったので、とりあえず記念に象に乗った後で、バンコクに戻る。
とりあえず駅で待つ。人々が鉄の網を手作業で組んでいる。コンクリートの壁でも作るのだろうか。

10分待ってね、と言われ20分後に列車が到着。なかなか優雅だ。古さ具合が、趣があっていい。
乗車。

出発してすぐに、さっきの橋を渡った
腹は減ったし、暑いし、喉が渇いて水を買ったらバンコクの倍もするし、寝不足だし、イ
カダがつらかったし…
というわけで、誰とも話したくなかったので窓際に一人でちょこんと座って外の風景を眺めることにした。
空が青くて、雲が白い。地球に住む人の大部分が知ってる事実だろうが、改めてそんなことを強く感じた。
列車は大きな音を立てながら進む。今では貴重となった、このうるささが心地よい。
どちらの方角に向かってるかもわからないし、終点で降りろと言われているだけで、それがいつぐらいに到着するかも知らされていない。
そう。できることは外を眺めることだけ。
同じような風景が延々と続くが、なぜか飽きない。
植物の形が微妙に違うこと、土が赤いことが新鮮に映る。
前に座っている老人はピクリとも動かずに窓の外を凝視している。
彼はこの辺に住む人だろうか。何をしてる人だろうか。彼の人生の歴史はどういったものだったのだろうか。
そして彼は今、何を考えているのであろうか。
失礼だと思いつつもシャッターを切らせて頂いた。眼光が素敵だ。
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空の高さと雲の白さに感化されたわけではないだろうが、なぜか自分の心も浄化されていた。
そして焦点の合わない目はどこを向いていたのか、今となっては分かる術もない。
しかしながら小一時間、色々な思いに耽っていたようだ。
そこに特別な意思は感じられず、起きたまま夢を見ていたような状態だったとも言える。
中学の頃の面白い出来事を思い出し、ふと笑ったり、今でも罪悪感を感じるような胸を痛めた話が出てきたり。
夢という舞台では、自分の実生活では中心じゃない人に限って突如と して主人公になったりするものだ。
普段送っている日めくりカレンダーのような日々では思い出すことのできないぐらい疎遠になった懐かしい友達。
今まで出会ってきた人々が次々と現れては、それと同時にその人に関するエピソードが映像としてとめどなく流れる。
ふと、みんなに絵葉書でも書こうか、なんて普段では考えられないような気分にさえなった。
この3日間のバンコクでの出来事も、また蘇る。
バスに乗ったときに吸った排気ガスの臭い。ゲストハウスの湿った臭い。
街全体から聞こえる騒がしい不協和音。
バナナを飛ばしたおばさん。それに大爆笑した自分。
おっぱい丸出しの若い女性達。そしてその彼女たちを目の前に、真剣に日本語の授業をした自分。
あたかも映画でも見てるのではないか、他人ではないかと思うほど、主観を感じない映像。
何が作用してそうなったかは分からない。
目の前の風景は電車の速度によって押し流され、次々とわずかな変化を見せる。
青、白、緑、赤。
人工的なものを好み、自然が美しいなどほとんど感じないタイプだが、このときだけは妙に自然に見入ってしまった。
世界には「黒と白」と、色を表す言葉を二つしか持たない言語もある。
もちろん彼らがモノクロの世界で生きているというわけではないが、言語と認識力はかなり密接な関係にある。
そんな言葉を持つ国の人が、この風景を見たらどう思うのだろう。どう感じるのであろう。
もしかして、こんなときに新しい単語が生まれるのかもしれない。生まれたとしたら美しい。
ふと、そんなことも考えたりした。
バンコクの喧騒もタイらしいが、こんな瞬間もまた違ったタイを感じさせてくれた。
とにかく、この列車にはなかなか素敵な時間を与えてもらったので感謝せねばならない。コップンクラップ。
今でも、その風景はしっかりとまぶたの奥に残っている。
しばしの間、カメラの存在さえも忘れていたし、写真に収める必要もないと思ったが、一度だけ空に向けて何気なくシャッターをおろした。
焦点もぶれてるし、電線も写ってしまったひどい写真だが、個人的には…まぁ、悪くないと思ってたりする。実は。
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