【第3話】変態認定ノ儀式

(この話は韓国語が分からないと、まったく面白くないです。ごめんです)

そう。美人が苦手。
美人だと面と向かってあまり話ができない俺。
見るのは好きだけど、接するのが苦手。
俺にとっての美人とは、鑑賞の対象としての存在でしかないらしい。
これは現実論で理想とは違うが、チキンハートの人間として生まれてしまったんだから仕方ない。

さて、映画。機内上映。
前から見たい映画だったので、かなり嬉しかったことを覚えている。
ヘッドフォンをつけて、さあ鑑賞開始…





……じぇんじぇん見えない。




呪われたように、最も画面が見にくい座席だ。
スクリーンからかなり遠い。そして自分より後ろの人は、俺の頭上のテレビを見ている。
そんな悲惨な席だった。しかし、どうしても見たい。
ここは席の移動を頼もう。わずかだが空席がある。せめて2時間だけでも移動を許可してほしい。
スチュワーデスさんに頼んでみるか。



エクスキュ…









はっ!( ´゚,_」゚)






これは…







韓国語で話すチャンスじゃん!




そうだ。忘れていた…俺は、自称
「韓国語が話せます」じゃないか。
それに別に英語が好きなわけも、上手なわけでもない。
相手の母国語を使って真摯な態度で話すことは失礼にはならないはずだし、それに自分を試す絶好の機会じゃないか!

よし…そうと決まれば一人作戦会議開始。

頭の中でシュミレーションが始まる。
「すいません。映画を見たいんですが、画面から遠くてよく見えません。前の席へ移動してもいいですか?」

これだ。シンプルにこれだ。
これだけ言えれば俺は自己満足に浸って、圧勝韓国旅行を確信できる。
まさに自分への挑戦で、最初にして、最大の難関だ。

うーん…これ韓国語で言えるか?
再び考える。

……

なんとか言えそうだ。完璧かどうかは別として、発音さえ悪くなければ通じるような気がする。



よし…

勇気を出して…


「あのぉ…すいません」









「はい?*^-^*」






グハァッッ!!!

いきなりいいパンチもらったああっ!
だめだ。美人過ぎる。
目には星がキッラキラ☆輝いてやがる。
俺、ダウン寸前。美人と目を合わせて話すの無理って言ったじゃん。
やばい、やばいよ。いきなりピヨってる。

ほら、早く早く…何か話さないと変な人だと思われるぞ。


「あ…ヨンファ(映画)…が…ポゴシポヨ(見たいです)…」



俺の微妙な発音に、眉毛をゆがめる美人。
「だから何?」みたいな表情だ。やばい、早く用件を言わねば。



「あ…クロナ(しかし)…」


画面…画面…何だっけ? ああ、美人を目の前に、いつもの戦闘能力の30%しか出ない。
ぐはあっ! 地球のみんな、オラにちょっとだけ………!!そうだ英語だ。スクリーンで通じるはずだ。


「スクリーン…エソ(から)…」







「……」





“遠い” 忘れちゃった;_;



いや、確かに覚えた。
通常の状態なら、絶対に思い出せる。
しかし、もはや俺は蛇に睨まれた蛙。メデューサの目を見て石化してしまったのだ。

で…出た言葉が…





「スクリーンからここまで“far”です」





「very far です」




うわああああ!!
長嶋やっちまった!






しかし…



「はい*^-^*」



なんて優しいんだ…
かなり下手なのに一生懸命韓国語で話そうとしていながらも、微妙に間違ってる外国人。
それに対して哀れみ半分、微笑ましさ半分が融合され、母性本能から出てきた…というような笑顔だ。
しかし、その笑顔からこぼれ落ちた八重歯が俺の100%ツボ。怒涛の会心の一撃をくらって戦闘能力がさらに落ちる。
グフッ…もはや失神寸前。

いや、立つんだ!立つんだ!
プラス思考でいくならば、これまで無難にコミュニケーションは成立してるじゃないか。

そうだ。これは
順調なんだ。

そうだ!よし!
順調だ。

よし、今の俺。輝いてるぞ!だいじょうぶ。さあ、その調子だ!




次の言葉は、これだ。

「見えません」


つまり
“I can not see”と言えばいいんだな?

よし。できそうだぞ。がんばれ、俺!

うんうん。
「見る」「ポダ」だ。


“can not”「動詞語幹+ジ+…」…あれ、何だっけ?


あ~


い~


う~…




「モタダ!」




つまり…「ポジモテヨ!」

オッケー!完璧じゃん!イェーイ!


ウハハハハハ!





しかし…。韓国語が少しでもわかる人は気づいたと思うけど…これ、
間違ってる。

たとえば、ちょっとつまらない話をすると、自動詞、他動詞。
ここでは
「見られない」じゃなくて、自動詞を使っての「見えない」が正解だ。
しかし、しょせん1週間の付け焼刃、このときの俺にはそこまでの能力がなかったのです。

長々と書いたが、実際にはここまで10秒程度しか時間が経っていない。
よし! さあ、いくぞ!ファイティング!



相手は手ごわい。
目を見るな!

目を見たら殺られるぞ!美人光線で石になるぞ!



「画面から遠いので……ポ…」

まさか
まさか
まさか
まさか


ギャピーーーーッ!!
まさか
まさか
まさか

目を見てしまった!!







ぅうわわっ!
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

まさか
まさか
まさか
意識が遠くなる…ああ、目の前に大量のヒヨコが飛んでるよ…





「…ポ……ポ……ポ…」
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

まさか

まさか
「ポ……ジ……モ…?…?…」

まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

まさか
モテヨが
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

出てこない。


まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

あわあわあわあわあわあわ@_@
まさか
まさか

やばい俺は今、かなり挙動不審な変な外国人Aだ。
まさか
気のせいか、周囲の乗客も俺に注目し始めている。
なんだ、そんなに韓国語ができない日本人が珍しいのだろうか。
いや、このとき気づけばよかった。今、俺はとんでもない言葉を言おうとしていることを。
まさか
まさか
まさか
まさか

ところでジュセヨ。
日本語だと「ください」の意味だ。とても便利な言葉。
そしてその「ジュセヨ」という音が結構かわいいので韓国語を習いたての日本人としてはとても覚えやすいし、使いたがる。
俺も大好きだった言葉だ。
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか

俺の頭の中には、ネズミが100匹ぐらい走り回ってチーズを探している。
まさか
しかし目の前には俺の苦手な美女がいて、その愛らしい目を見てしまったせいで俺のすべての機能が停止寸前。
まさか
まさか
具体的には
まさか
モテヨが出てこない混乱。
まさか
まさか
そして韓国語初心者に有り勝ちな、
まさか
まさか
ジュセヨ(ください)が勝手に口から出てくる罠。
まさか
まさか
まさか
まさか
さあ…みなさん…私は…今…この瞬間…狂気狂乱魑魅魍魎の…世界へと…旅立とうと…しています…
しっかりと…目を開けて…その姿を…目に焼き付けて…ください…
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
「ポ…

まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
「ポ…

まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
「ポ…ジ…

まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
まさか
ああああああ!




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